題詠100首マラソン2016

 2003年に「第1回 題詠マラソン」がネットで始まった。参加者全員が、1つのお題につき1首、合計100首の歌を、1年間かけて詠んでいくという催しで、短歌界で活躍しているプロ級から僕のようなド素人までの162人の方が参加した。そしてその時は本として出版までされて、恥ずかしながら僕の歌まで掲載された。その当時の掲示板がまだ残されていて、13歳も若い僕が、そこに居る。
 翌年も参加して100首完走した。その時も出版する話もあり選歌までして原稿を提出したけれど残念ながら出版はされなかった。そしてそこからも数年、題詠マラソンは開催されたけれど、完走することができず、そのうち短歌からも遠ざかってしまった。
 そして今年、FACEBOOKで題詠マラソンが行われることを偶然知ることができた。昨年の父の死や、友人の死で、歌を詠みたくなっていた僕は、迷わず参加した。始まって1ヶ月ほどで70首まで詠んだが、その後8ヶ月ほどブランクがあり、11月にまだ詠み始めて、今日完走することができた。
 あふれる気持ちがある時は、「お題」は邪魔な存在であるのだけれど、そうでない時は、心の底に眠った感情を引き出してくれるきっかけになるものなんだと、あらためて気づいた次第である。
 記録として僕の拙い歌を並べて置く。
001:地    いまはもう煙となってひさかたの天をゆく君我は地上に
002:欠    箸で摘む父の欠片を骨壷に足から順に積み上げてゆく
003:超    ゆうつずの彼方を見上げ君がいる超新星となり君がいる
004:相当   存在をいつも感じるあの日から我が父思う相当つよく
005:移    父乗せた寝台は部屋から部屋へ移りても家へ帰ることなし
006:及    来世まで言及ぶには未熟すぎ青春語るほど熱くなく
007:厳    風琴の重低音が厳かに友の魂揺する教会
008:製    原発にヘリを落とせば水爆の製造などは必要あらまし
009:たまたま たまたまたまきはる世に生まれては君と出会ってお前が生まれ
010:容    旧友の訃報が届き我が胸の容量超えて冬、夜深く
011:平   護摩を焚き平安願う其の坊主むかし我らのガキ大将
012:卑   あほんだらカネに卑しい政治屋が何が矜持や品格じゃボケ
013:伏   ケータイをなくしたからと真土山待ち伏せておりそんな口実
014:タワー 幻惑のシャンパンタワーあふれまい新自由主義など糞食らえ
015:盲   我が国は盲者あふれてスリーエス政策いまやたわわに実る
016:察   警察の安寧秩序は権力を維持するために今も昔も
017:誤解  政治的対立軸の誤解ありもはや右や左ではない
018:荷   お荷物と非生産者を定義する新自由主義は亡国一途
019:幅   あかねさす日本会議の幅利かす暗黒の時 未来はあるか
020:含   ほらみてみぃ貧乏人の食べもんはGMO含むもんしかあれへん
021:ハート  偽物のハート見抜けぬやつばかり大阪人よしっかりせえよ
022:御    御陵前東に入れば南宗寺堺市立第三幼稚園跡
023:肘    肘掛けの左右どちらも使えずに肩をすぼめて一人映画館
024:田舎   田舎にはありがちなもの人情と田んぼに自然そして原発
025:膨    あまのはら富士が膨らむ近ごろは爆発すれば憲法も消え
026:向    たましいはどこに向かうか知っている人の群れから我は逸れて
027:どうして なんでなんどうしてなんええ奴ほど先に逝くねんなあ井上よ
028:脈    肩と肩触れてる母の息浅く思わず脈を測る車中にて
029:公    教会へ友を訪ねる雨の日に人は溢れて公道黒し
030:失恋   本当の失恋の時それはたぶん我かお前がこときれるとき
031:防    戦車より消防車好きという子にプレゼントするゴミ清掃車
032:村    米軍が乳児幼児を銃殺のイシャキ村など安倍は知らぬか
033:イスラム イスラムの印象操作してるのは戦争好きな商人たちか
034:召    この国も逃げることなどできるよな召集令状出すはずもなく
035:貰    嫁貰うの「貰う」てなんやモノとちゃう人間やぞと花嫁の父
036:味噌   高野豆腐白味噌雑煮棒鱈に百合根の炊いたん嗚呼帰りたい
037:飽    日本人平和に飽きたか武器を持て戦え殺せアメリカ守れ
038:宇    あべちゃんに尻尾ふりふりワクチンをばら撒き目指せ八紘一宇
039:迎    ミサイルと人工衛星は違うやろそれに迎撃なんか無理やし
040:咳    怒りもて短歌を詠めば咳き込んで眉間の皺が怖いよと妻
041:ものさし  家庭科の竹ものさしで尻を打つモノクロームの先生が居て
042:臨     我の肺汚し続けし煙突のありて臨海工業地帯
043:麦     父が呑む麦酒を盗み飲み我は大人になんかならぬと誓う
044:欺     いくたびも繰り返すのか同じよな過怠おのれを欺くばかり
045:フィギュア 怪獣のフィギュアが風呂の釜のなか溶けるを眺む少年時代
046:才     もうあとは抱きあうための時間だけ残して我は五十六才
047:軍     米軍の特権をなぜ吠えぬのか嗚呼ぬばたまのレイシストたち
048:事情    二合しか炊けへんかったどうでもええ事情を君に問い糾されて
049:振     僕が触れ君に触れられさざなみの夜を漕ぎゆく共振の舟
050:凸     経年でなだらかになる凹凸とやっこい肌に僕はまみれる
051:旨    旨酒を今宵一献酌み交わす我の恩師は八十四なり
052:せんべい 擦り切れたせんべい布団神々し妹背契った我らの証
053:波    地下鉄をたった四駅乗るだけで文化が変わる難波と梅田
054:暴    ほんまはな暴力団の町いうたら大阪ちゃうで神戸なんやで
055:心臓   柔らかな乳房隔てて心臓の鼓動感じる我の胸にて
056:蓄    蓄えはなくともいつも流れあり清々しくて恥ずることなし
057:狼    虚しきやただ一匹の狼に急行列車通り過ぎゆく
058:囚    長堀を西へ下れば陽の光まなこに射し入る囚われの我の
059:ケース   我が家の烏兎怱怱を眺めおりケースの中の優しき眼
060:菊    漸くに理想の時が訪れる移ろい菊のようなあなたと
061:版    新しき版を重ねむ相方と綴る二人のたまゆらの書史
062:    わが妻の下腹部に縦一筋の既往歴あり指で辿りて
063:律   あずさゆみ音律かさね上に下にリズミカルにひとつになって
064:あんな ひさかたの水平線に月が沈むあんなに遠く離れてたのに
065:均   均霑な世などは夢の夢なのか醜聞を撒く政客ばかり
066:瓦   精神の瓦解しそうなぬばたまの頭にボトル打ちつけた夜
067:挫   木枯らしに挫折が服を着る我を嗤え明日のためにその一
068:国歌  国歌を歌わず処罰されるのはあの金さんちでさえされませぬ
069:枕   連れ合いの枕のかおりむさぼりてまどろむ休暇午前十二時
070:凝   春の日に凝りて固まる君の肩や背中や腰をほぐすよ僕は
071:尻    能なしの独裁きどるものたちの尻馬にのる盲目メディア
072:     その壷に入りきれざる骨の父何処の空で風に還らむ
073:なるほど よもすがら会えなくなるほど苦しくて吐きそうだから月に遠吠え
074:     弦月夜ひとり佇む歩道橋みちてゆくのかかけてゆくのか
075:肝    群肝のこころは腐臭漂いて何処か遠くで季節すぎゆく
076:虜    われよ我亡虜となりて道迷い、嗚呼、われよ我光はどこだ
077:フリー   プレスリージャックナイフリーゼント28日はロカビリーの日
078:旗    デフォルトはいつも白旗かかげてる自分に嫌気さしているけど
079:釈    われ、我を釈放せしめもう二度と此処に来るなと抱きしめんとす
080:大根   野菜室奥に転がる玉ねぎの陰に隠れる大根のへた
081:臍    臍の下三寸下れば人類の根源ありてこんにちはさようなら
082:棺    ぬばたまの棺に入りてひとりごつ むっちゃおもろい人生やったわ 083:笠    朴訥で語ればさらに棒読みのローアングルな笠智衆なり
084:剃    この国はもはや終わったコンテンツ心静かに剃髪をする
085:つまり  つまりもう語りたくもないバッカバカしくて見慣れた場面強行採決 086:坊    坊さんが放屁する間にひたひたと近寄りしもの、我の背を撃て
087:監    あべはじめげすいやつらのせいじやがわれらのくにを監獄にする
088:宿    灰の中毅然と宿るうずみ火よ我らの胸に光と熱を
089:潮    引き潮が足裏の砂少しずつ削るともわれ凜と立つべし
090:マジック 風車じっくり見れば馬鈴薯の花びら舞いてマジックペタル
091:盤  ははそはの母は時間をさかのぼり初めてのよに鍵盤かなで
092:非  人に非ず、我ら市民をたぶらかし1%に媚びる政治屋
093:拍  世界的同時多発の右傾化は無知で無恥こそ拍車をかける
094:操  道徳を点数化して粛々と生徒を操り人形にする
095:生涯 何も得ず何かになれずただ揺れる柳のようにわれの生涯
096:樽  樽腹を君の刃で切り裂けばによろによろとアンニュイ垂れて
097:停  我が心の東湊電停前今も聞こえる踏切の音
098:覆  覆すほどの祖国は何処にある瞼の裏の海は深くて
099:品  品性の欠片散らばり粛々と粉塵漂う国会議事堂
100:扉  透明な呼吸整えて立ち上がる光はあるか扉の向こう

ユズリベキモノ

 『ゆずり葉』 河井酔茗 作

子供たちよ。
これはゆずり葉の木です。
このゆずり葉は
新しい葉が出来ると
入り代わって古い葉が落ちてしまうのです。

こんなに厚い葉
こんなに大きい葉でも
新しい葉が出来ると無造作に落ちる
新しい葉にいのちをゆずってー

子供たちよ
お前たちは何をほしがらないでも
すべてのものがお前たちにゆずられるのです
太陽のめぐるかぎり
ゆずられるものは絶えません。

かがやける大都会も
そっくりお前たちがゆずり受けるのです。
読みきれないほどの書物も
幸福なる子供たちよ
お前たちの手はまだ小さいけれどー。

世のお父さん,お母さんたちは
何一つ持ってゆかない。
みんなお前たちにゆずってゆくために
いのちあるもの,よいもの,美しいものを,
一生懸命に造っています。

今,お前たちは気が付かないけれど
ひとりでにいのちは延びる。
鳥のようにうたい,花のように笑っている間に
気が付いてきます。

そしたら子供たちよ。
もう一度ゆずり葉の木の下に立って
ゆずり葉を見るときが来るでしょう。

ボクタチ大人は子供たちに何を譲れたというのだろう。
どんなものを譲ろうとしているのだろう。

自分たちの享楽のためにだけあらゆるものを消費尽くし、
そしてそのことが価値があるともてはやされ、
挙句の果てに手を付けてはならないものにまで手を出し、
災いが降りかかる。
にも関わらず、まだ厚顔無恥ぶりを晒し続けるのだろうか。

「ゆずり葉」を読むと心が締め付けられる。
「いのちあるもの」を一生懸命に作ってきたんだろうか。
「うつくしい」ものは壊されていき
「ひとりでにいのち」は縮んでいるようにしか思えない。
嫌がっても全てのもが押し付けられる「おしつけ葉」だ…。

台風前夜

立て髪が鼻をくすぐる七夕の半径三億光年の夜

君の背の匂いをさらう夜の風二の腕がこんなにも冷たい

あかときの微熱の我を撫でる風サンダル擦れの傷跡痒し

門哉彗遥

外し忘れたハンガーのように

3日の日に家族で散歩した風景が
外し忘れたハンガーのように
僕の中にある

僕たちが暮らし始めた風呂もない2Kの団地が
外観は変わらないままそこにあった

赤ん坊の長女はあの部屋に居たのだ
僕らの愛に包まれすぎて
いつまでたっても腰がすわらなかった

そんな長女も今は一人暮らしの生活に追われ
安物のつけまつげを張り付けて会社に出かける

伝えたかったのはなんだったんだろう
伝えなければならなかったことは…
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「夏が行くそして」
肩で息をしながらも
まだこんな処を彷徨っている
何処かで見ているあの人が
小さなダブリュ記す

微熱と動悸だけが
いつも僕に言い訳を探させる
気がつけば揉み消された吸殻と
苦味だけが残った口の中

胸の鼓動とくりとひとつ夏がゆく

何も終わっていないのに
何も始まっていないのに

“作り直しのきかない過去なんて
どこにもないんだよ”
まばらな白髪頭、伸びない膝
そんな夢から覚めた休暇の朝
タイマーが切れた扇風機に
八月の光が射していたんだ

cq cq i’m wind
いくつもの椅子たちが壊れ
風が吹き雲が流れ涙も流れ
そして言葉が残った

“自分たちにしか通じない言葉を
もつのが恋人同士である”
2007.8.19

 

僕の空論

「僕の空論」             門哉彗遥

幼い頃よく空を見上げていたのは、
雲の隙間からこちらを見ている人を探すためだった。
人影を見つけては
こちらに落ちてこないかとハラハラしていた。

少年の頃は雲を突き抜けて飛んでいくことばかり考えていた。
大きな口を開けながら飛んで行くのだ。
雲は甘いのか苦いのか。

青年の頃、空を見上げては雲を消し去ろうとよくしていた。
両手を出来るだけ薄い雲にかざし、
その雲を睨めつけながら念を送るのだ。
やがて消えていく運命の雲だなんてことは、
わかってはいたけれど。

大人になって
空を見ることを忘れていた時代も確かにあった。
それはそれでその時を生きるのが精一杯だったのだから仕方ないし、
よくもわるくもないだろうと思いたい。
空はいつだってそこにあったのだし、今もその下にいる。

これからも空を見続けることだろう。
空が頭の中へ流れ込み、脳が雲となるまで見続けたい。
風は耳鳴りとなり、雨は涙となり、雷は怒りとなり、頭は空へ広がり、
空はさらに広がり雲はながれ風がふき命をはこび命あふれ、
あふれよいのち。
あふれよいのち。
あふれよいのち。

朝まだき

朝まだき

明けゆく白空に
ゆっくりと息を吐く

何かをどうかしたいわけじゃなく

どうもしなくていいよと、
つぶやいてみる

満ちるものがあるとき
その波頭に立ち上がり
雲に手をのばしてみる

沈むときには
捨てられた子どものように
体をまるめて海底を漂う

愛しくて仕方ないときは
強く抱きしめて
こぼれる香りに埋もれる

悲しいときは
原生林に吹く風のような
誰かの歌声に身を委ねる

ただ、昨日は過ぎ
また今日が始まる
見え始めた太陽は加速をつけ
そして、カンバスの下地は乾かないまま 

静寂の森

静寂の森

何を祈って
誰を守る

何処に落としてきた
何時のことだ

綻びを繕うこともなく
火を放つこともなく
水に流すこともなく

満つることもなく
果てることだけを
密かに願い

静寂の森へ

遠ざかる
遠ざける
何処よりも遠く
誰からも遠く

未明

未明

蛇口の一滴が
ステンレスを叩く
絡み合った神経の一筋が
光を放ち
背中をぴくりと震わせる

夜に撥ねられた猫は
わずかな息で
自ら溝に転がりこむ
雨の匂いがしない
それは救いでもなく

手探りで腕時計をはめ
煙草に火を灯す
脳細胞の隙間に染み込む煙が
数時間前のアルコールの
機嫌を確かめる

夜に塗り込められなかった烏は
水曜日のゴミを空に運び続ける
黄色いランドセルのあの子は
電線に絡んだナプキンを
見上げることだろう

紐のない運動靴に足を滑らせ
鍵もかけず部屋を出た僕は
泥だらけのカブに跨り
キックで今日を占う

アイドリングで黙り込んでしまった
蛙よ、もう寝ていいから

あの闇が空と山に分かれる頃
配達を終えた僕の今日が始まるのだ

デスペラード口ずさみながら
ローに踏み込む

そう、僕の未明