「戦争童話集」という芝居を観てきた。野坂昭如原作の「戦争童話集」から、「小さい潜水艦に恋したでかすぎる鯨の話」「干からびた象と象使いの話」「ソルジャーズ・ファミリー」「凧になったお母さん」の四編を「八月の風船」の話の中に織り込んで、風船爆弾工場で働いてた若者たちに四つの物語を語らせながら次第にその世界を演じていくというドラマツルギーだ。
最初の鯨の話と象の話は題名から想像される通りの内容だ。大人ばかりの観客相手では少し気恥ずかしくなりそうな話だが、「ソルジャーファミリー」は南の島に残された兵隊が餓死していく過程で見る夢の話で、餓死していく現実とその時に見ている夢のファンタジーさとのギャップに、心の琴線を撫ぜられた。胎児になって顔も知らない母親のもとへ戻っていくところは想像力を刺激され印象に残るシーンとなった。
そして「凧になったお母さん」は、空襲で火に囲まれた中で、我が子が脱水症状にならぬよう、自分の汗や涙、そして終いには体中から噴きだした血を与え続け、体が干からびて凧になって飛んでいくという話である。凄惨ながらも、空を飛んでいくシーンは美しく表現されていた。迫真の演技が、会場のあちらこちらから涙を誘っていた。
舞台の演出は、巨大な白布を二箇所で釣り上げ、それを上下させながら青い光を当てることによって波や海中や空を表現したり、赤いライトを当てて揺らしながら表現する炎は、シンプルながらとても効果的であったように思う。その反面、舞台上に散らばっている様々な小道具が、少し猥雑な感じがした。特に黒い舞台の上に中途半端に白い布が散らばっているのは見苦しかった。そのあたりはもう少し工夫をするべきではないだろうかと思う。
実はこの芝居は関西芸術座附属研究所第54期生の卒業公演だった。役者の初々しさと、その直向さが伝わってきて素敵な舞台だった。少しぐらいのミスなど気にならないほど熱いものを感じた。打ち込めるものがあるって素晴らしい。僕も何かしたくなってきた…。