冷血

何の救いもなく、荒涼な心象風景が呼び起こされるようで暗澹たる気持ちに追いやられてしまう。この「冷血」には、たいした動機も理由もなく一家四人を惨殺し、あっけなく警察に捕まった後も、自分たちの凶行を省みることもなく、はたまた開き直るでもなく、まるでADHD的な非行を重ねる中学生のような犯人が描かれている。

被害者の一人である女子中学生や犯行直前までの犯人たち二人の内面が描かれているところは秀逸で、複雑で繊細な心の動きにまるで様々な角度からフラッシュを浴びせているようだ。

しかし、二人が捕まってからは、犯人たちの内面から描かれることはなく、合田刑事から見た二人が登場し、事情聴取が延々と繰り返されていく。そしてやがて合田と犯人たちとの書簡が少しずつ交わされていくのだが、そこに現れる犯人は、文学的な表現ができる思慮深い青年となっている。しかし犯行に対する反省や後悔はなく、人格的な変容が描かれているのではない。

そこにあるのは塞ぎようのないぽっかりと開いた大きな空洞だ。そこに吹きすさぶ風が血を凍らせていく。9.11で妻を亡くした合田にもその風は吹いている。ただその空洞を見ないようにして生きているだけだ。その為に合田は毎朝、畑に出てキャベツを育てる。金属バットで叩き割るのではなく。でも、育てるのも叩き割るのも、紙一重なんだ、たぶん。