お母さんから「できたみたい」と聞いた時、なんとも言えん幸せな気持ちになったと思う。
随分昔のことだから記憶が曖昧で申し訳ないけど。
日々、お母さんのお腹が大きくなっていくのが嬉しかった。
大きなお腹の写真まで撮ったのを覚えてる。
そして、お腹に口をつけて
「お~い!お父さんやで~。元気に生まれてこいよ~」と何度も呼びかけた。
覚えてる?わけないか。
そうそう、出産間際になると、お前はお母さんのお腹の中でよう動いてた。
時々、お腹の一部がぽこっと、とんがる。
それはお前の手や足で、そーっとその部分を触れたりしていた。
覚えてる?
お母さんの皮膚越しの握手やで。
出産には絶対立ち会おうと思ってた。
ある日、お母さんの陣痛が始まった。
ウンウン言いながら病院に行くと、「まだ子宮が開いていない」と言われ、帰ってきた。
数日後、また陣痛が始まり、お母さんはお腹が痛くて歩ける状態ではなくなったんで、
おばあちゃんが、お母さんをリヤカーに乗せて病院まで連れて行った。
職場に電話がかかってきて、お父さんも病院にかけつけた。
とても苦しそうにしていたので、お腹をさすってあげた。
でも、なかなか子宮が開かへん。
お父さんは、出産に立ち会いたかったんで、ずっとそばにおった。
お前のことも心配やったけど、お母さんの身体のことも心配やった。
結局、二日間ほど陣痛で苦しんだあげく、お前が生まれてきたんやけれど、
お父さんは立ち会えなかってん。
ずっとそばにおったのに。
あまりにも眠たくなって、つい隣の空いているベッドで寝てしまってん。
気が付いたら、お母さんはベッドにおれへん。
病室に入ってきた看護婦さんに「こんなところで寝ないでください」と怒られた。
急いで新生児室に行くと、お前がおった。
初めて見た印象は「気持ち悪い」やった。
ごめん。
なんでかというと、お前のその時の顔が、
お父さんとお母さんをたして二で割ったような顔をしてたからや。
間違いのう二人の顔やった。
でも、その後はどんどん可愛くなり、いつも抱っこしていたような気がする。
抱っこばかりしてたんで、腰や首が座るのが遅なったかもしれへん。
1歳になっても、ぐにゃぐにゃで、座ることもでけへんかったように思う。
やがて年月は過ぎていって、お前が大きくなるにつれて、
お前と触れ合うことがでけへんようになってしもうた。
中学生や高校生の子供を抱きしめるやなんて、普通あんまりあれへんよな。
あんなに赤ちゃんの頃に抱っこしてたと思うのに、なんでもっと抱きしめておかなかったんやろうと、
お前が大きくなってからは、ずっとそう思ってた。
お前もこの秋に母親になる。
遠くで暮らしているんで、とても気になる。
心配や。
こっちで産めばいいのにと思うけど、お前が決めたことやから、仕方ない。
きっと大変なこともいっぱいあるかもしれへんけど、
お前の体も気を付けながらも、
お前の子供をいっぱいいっぱい抱きしめてあげや。
父より