野火

唯一、主人公の田村が笑う場面がある。
彼を拒否していた野戦病院の軍医が目の前で機銃掃射に遭い、頭が吹っ飛ぶ。そして病院も燃えてしまう。燃え盛る病院の前に突っ立ったまま、彼は笑う。でも、映像的には背後の火事が明るすぎるので、田村の姿はほとんどシルエットだけなのだが、何故か白い歯を出して笑っているのが見える。この映画の「狂気」の始まりだった。

田村がひとりジャングルを彷徨い、対峙する自然はあまりにも荘厳で、もしかしたらこれも狂気なのかもしれない。肺を病んでいる田村は真っ赤な血を岩の上に吐く。灼熱の岩の上で、その血が沸騰する。赤黒い花が咲き乱れていくようだ。肺病の吐血までアートに描こうとする監督の狂気を感じる。

ハリウッド映画などで「これが戦争の実相だ」とか「強い絆で結ばれた男たちのドラマ」とかなんとか宣伝された戦争映画があるけれど、この映画と比べたら、笑止千万ものである。この映画に「匂い」がなくて本当に良かったと思う。もし匂いがあったら貧血で倒れているか、ゲロまみれになっていたことだろう。

そしてヒューマンなドラマなど一切ない。どうやって自分が生き残るか。食うか食われるかの駆け引きだけの「餓鬼」となってしまうのだ。太平洋戦争での戦死者230万人の6割にあたる140万人が、この「餓鬼」にさせられてしまった。これこそ、戦争の実相だ