台風前昼

 

大阪は午前中から暴風警報が出ているが、時折、陽がさしたりして青空も見える。着実に台風は迫っているとは思うが、もう何十年も、まともに台風がやってきたことがないから、今回もどうせ大したことはないと高をくくってしまう。

半世紀ほど前のことだが、その頃住んでいた家は、木造中二階建てで、通りに面するところは出格子になっていたので、台風がやってくると、その上に大きな戸板を打ち付けた。それは父親の役目で、近所の人たちも同じ時間に同じような作業をしていたので、大人たちは皆、お互い手伝ったりしていた。板に釘を打つける金槌の音が、近所に溢れた。

家の中では母親がロウソクやおにぎりの準備をしていた。そんな非日常に、不謹慎ながらわくわくしたものだった。で、台風は本当にやってきて、風は吹きすさび、家はガタガタと揺れる。停電もした。家族は、ロウソクを囲んで、おにぎりを頬張りながら、台風が通り過ぎていくのをじっと待った。台風が過ぎ去った頃、近所の男たちはステテコ姿で表にでてきて、空を見上げる。何やら談笑した後、戸板をはずす作業が始まる。そんなセピアなシーンが思い出される。

でも、子どもの頃を過ぎると、いつのまにか台風はやってこなくなった。いつも大阪の手前でどこかにコースがはずれてしまう。住んでいる家も、コンクリートの集合住宅になったので、ベランダを簡単に片付けるだけで、なんの準備もいらない。なにも協力しあう必要もない。サッシを閉めたら風の音もほとんど聞こえない。台風だからといって、家族も集まらない。

僕の周りには台風が来なくなったのではなく、見えなくなったのだろうか。