山人のリア

 

 昭和22年の紀伊山地を舞台に繰り広げられるシェイクスピア「リア王」をベースにした脚本家・岩崎正裕氏の作品。

 それぞれの役どころや立場などは見事に整合性のとれたものに置き換えられて、まるで昔本当に紀州であった物語のように感じさせられるほど完成度の高い作品だ。そしてその中にも、岩崎さんテイストが散りばめられており、反戦への思いも込められていた。

 例えば、エドガーはビルマ戦線から帰還し、厭戦気分になっているが、エドマンドは中国で多くの中国人を殺害しながらも、今なお親や兄弟を陥れてでも功名をたてることに血道をあげる。追い出されたエドガーは山中に引き籠もり、強制連行された朝鮮人になりすます。山中で様態が悪化したリアは大阪大空襲の幻に苦しめられる、などなど。

 また、原作にはない山の女神が登場するファンタジックな場面があったり、リアがコーディリアのために山中の花をいっぱい摘み取って、それをリヤカーに乗せて登場する切なくて可笑しい場面があったり、また、コーデリィアが亡くなった時、夫のフランス王が嘆き悲しむ場面があったりなど、もしかしたらシェイクスピアよりも人物がきちんと描かれているのではと思った。

 最後におまけ。道化が冒頭の部分で鼻血をだした。最初は演出なのかと思ったが、鼻血を無視した状態で物語が展開されていき、鼻に綿を詰めてもいたので、これは事故なのだと思った。後半あたりでやっとリアが「お前は鼻血までだして可愛いやっちゃのお」という台詞でやっと救われたって感じがして、ほっとした。あんまり走り回ったら鼻血がまたでるよとハラハラしながら見せて頂いた(笑)。